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2007.06.30

09 幾何学の迷宮 / 京都府立図書館その1

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 これはなにか。孔雀のようにも見えるし、鶴のようにも見える。場所は京都市岡崎公園の府立図書館。床下の換気口だ。なかなかよくできている。ここへ来ると私は必ずこれを覗き込む。そのたびに、これはなにかと考える。

 府立図書館は武田の初期のデザインとして知られている。20世紀初頭、京都の伝統産業つまり織りと染めを近代化するために国立の学校が開かれた。京都高等工芸学校。その図案化の教授として武田はこの町へやってきた。同時代のヨーロッパでは工芸教育は建築家の役目だった。グラスゴーのマッキントッシュ。ウイーンのホフマン。その後のバウハウスだって校長は建築家だ。武田は日本で初めての国立の図案教育機関を担当する建築家として選ばれたわけだ。

 岡崎公園は、京都の産業振興のための博覧会場。恒久的施設として美術館、陳列館、図書館が建てられた。いずれも伝統産業に従事する若い職工たちのための教育を第一の目的とする。武田が陳列館と図書館を設計したのは当然とも言える。まず建物そのものが教材だったからだ。武田は図書館と陳列館を向き合わせ、白い壁に金色のテラコッタ(大型の素焼きタイル、これも京都の焼き物だそうだ)を配した。この配色はまがうことなきウイーン分離派だ。

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 誤解を解いておかねばならない。ウイーン分離派は、なんとなく優美な宮廷世界の延長のように思われている節があるが、実はそうではない。彼らにはもともとSF的なところがある。科学万能の新世紀を予感させるデザイン。彼らは都市や建築をモーターかなにかの機械のようにデザインする。幾何学的な箱をつくり、金属的な装飾を取り付ける。武田の好む幾何学的処理は、分離派ゆずりと考えて良い。ウイーンは当時ヨーロッパの工芸教育の最先端のひとつだった。彼は、分離派をモデルとした工芸教育を行なうとともに、自らの作品も分離派スタイルで律したというわけだ。

 さて、この床下換気口をよく見てほしい。一見自由な曲線で構成されたように見えるが、それはそう見えるだけだ。なにごとも幾何学的に決める武田が、そんな情緒的なことをするわけがない。はたしてこの楕円はどうやって描いたのか。

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 最初、黄金比1:1.4かと思った。でも、それにしては丈が短すぎる。割合としては1:1.15ぐらい。よく分からないのでコンパスを振り回して考えてみた。その結果、これは六角形を基本にしたものらしいことが分かった。なるほど。六角形は正三角形6つ分だ。正三角形の高さは辺の長さに対して1.73だから、六角形のすっぽり納まる長方形は3.46:4、つまり1:1.15。ぴったりである。

 武田がコンパスを使って、この図案を描いたことは間違いなかろう。というよりも、ここまでぴったりであることが、この床下換気口のデザインを武田が直接自分で決めたことをうかがわせる。

 なにもそこまでしなくてもと思うが、これが武田の持ち味なのだ。実は、図書館全体が幾何学的処理の宝庫である。今は外壁しか残っていない図書館だが、それでも武田の手の痕跡はいたるところで見つけることができるのだ。おもしろ過ぎるので次回も図書館。特徴的な2つの目玉の作図法を解いてみよう。

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