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2007.05.05

04-03 銀の橋の謎 付論|桜宮橋(大阪市)

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 ひとつ最初に断っておかねばならない。銀橋は構造家と建築家との合作だと武田は言う。それは、橋の本体を構造家が作り、建築家がこの階段塔を作った、というわけでは決してない。この階段塔はもっぱら建築家のデザインであることは間違いないが、武田の本意は大アーチ本体をデザインすることにあった。アーチのディテールを見れば、そこここに意匠的な配慮がほどこされていることは見てきたとおりだ。

 さて、階段塔である。よく見てみよう。屋根下の角のところに照明のようなものがはまっているのがかっこいい。このあたりモダンデザインだ。その下に「ロマネスク調」と言われたアーチがある。このアーチが、図のように正方形の対角線の交点を中心とする円であるという幾何学的処理が、いかにも武田的だ。アーチの縁を丸く仕上げたところ(写真)は武田らしくない古典的な納まりのように見える。ただし、全体の「あっさり感」は、この階段塔のデザインに武田の手が直接入っていることを思わせる出来映えと言えよう。


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 この階段塔が不思議なのは、レンガを使ったこと。モダンデザインを指向しながら、なぜレンガを使い、あまつさえ古典的なレンガの納まりを使ったのか。これは武田の言う「周辺との調和」のためとわたしは思う。橋の左岸は鐘紡の紡績工場群、右岸は造幣局。どちらもレンガ造りの工場街だ。それを通り抜ける国道1号線が、銀橋の大アーチのろっ骨の中を走り抜ける。レンガ色の階段塔は橋の付属物というより、工場街の付属物として風景に溶け込んでしまう。それがレンガを使った意図だろう。

 元来、武田がレンガもしくはレンガタイルを使うときは、既存のレンガ建物に合わせる場合が多い。同志社大学のレンガに合わせた同志社女子大。京大土木学科校舎に合わせた建築学科、とか。この場合もそうだったとわたしは思う。


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 では、なぜこんなところに「階段」があるのか。これが、この階段塔の本当の謎である。そもそも階段塔を付属する橋は、武田たちの関わった大阪の数多くの都市計画橋梁の中で他には無い。ここだけ、なぜ階段塔があるのか。

 これは非常におもしろい謎なのだ。

 階段はもちろん橋から下へ降りるためにあるのだが、下に何がある? そう、階段を降りた河川敷には、1923年開園の桜ノ宮公園があるんだね。大阪市の都市公園も武田の指導が入っている。これが左岸。そして右岸は造幣局。もう、お分かりだろうか。銀橋は階段塔を備えることによって、右岸の造幣局の桜の通り抜けと左岸の桜ノ宮公園の桜並木とをつなぐのだ。

 武田の意図は明らかだろう。銀橋によって、天満橋から桜宮駅までの長大な桜回廊が出現するのだ。そもそも銀橋の架かる旧淀川水面は「青湾(せいわん)」と呼ばれた名水地だった。桜もまた名水と関係が深い。たとえば秀吉の醍醐(だいご)の花見で有名な京都・醍醐寺の「醍醐」とは、山深くに湧き出る名水「醍醐水(だいごすい)」に由来している。そこはとてつもなく古い水神信仰の聖地だ。ここ青湾もまたそうした聖地のひとつだった。

 武田は「大阪の橋」というエッセーでこう語る。

 「桜宮橋はあの広い河面に橋杭を建てることが出来ないと云う使用上の必要から下路式鋼拱にしたのである」(旧漢字を当用漢字に改めた、「上方」1931.06.01)

 鋼拱の鋼は鉄、拱はアーチを指す。下路式とはアーチの下に道路のある形式。つまり銀橋のスタイルだ。ここで注意したいことは「使用上の必要」。架橋の際の「使用上の必要」としてまっさきに考えられるのは舟運の確保である。

 江戸時代に、青湾は大阪の桜の名所となる。ここの桜は、地上から見るほかに屋形船から眺めるという楽しみが加わった。水上庭園都市らしい楽しみ方だ。ここまで考えてくれば、武田の考えは明らかだろう。武田は、青湾の遊覧水面を保全するために銀橋を巨大アーチとした。そして、階段塔を設けることで桜の回廊を出現せしめた。なんと雄大な計画だろう。水上庭園都市の伝統を守りながら、近代産業都市の都市門に相応しい巨大モダン橋梁を架ける。「 The Silver Bridge in tha Blue Bay 」 これが武田が銀橋でプロデュースしたかったコンセプトだったようにわたしには見える。


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